金髪のお兄さん

私は10月が好きだ。

少し肌寒くなり始める季節。

3年前の10月、私は高校生で、学祭の準備をしていた。

この年の4月、2年とちょっと働いていた家から徒歩3分のファミマを辞めて、5月からセブンで働いていた。

そこに、金髪のお兄さんがいた。

そのお兄さん、そんな見た目のくせに、私に話しかける時、床を見て話すし、妙に早口で、ヤンキーじゃないんか。コミュ障か?じゃああれだ、バンドマンだ。と思った。

最初はそれだけ。

そのセブンの構造は、レジの目の前が冷凍品コーナーだったので、お兄さんが品出ししてる時、レジから何となくお兄さんを眺めることが多かった。

その時に気付いた。

なんて笑顔が可愛いんだ。

ものすごく好みの顔面だった。

気付いてからはもうそのお兄さんとシフトの被る金曜日が大好きになっていた。

私は人より積極性のある人間だと思う。

それに加えその頃付き合っていた彼氏は、高校も同じだし、男性なのだからと、パパとも連絡を取るのを拒むくらいの束縛ダブスタ浮気野郎だったので、異性と会話ができるのがこのバイトしか無かったのだ。

ガンガン話しかけた。

最初に話しかけたのは「○○さんってかっこいいと思いますか?」だったと思う。

何故そんな会話を振ったのかは分からないが、とにかく話ができればなんでもよかったのだ。

それに対する返事は「…え?なんで?」だった。

おい!!もっとこうあるだろ!?そんなに間をとってなんでってなんでだよ!と思った。

そんなことを毎週金曜、少しづつ続けていた。

だって好みだから。

それ以上でも以下でもなくて、どうなりたいとかもなかった。強いて言えば、ただ仲良くなりたかった。

何回目かの金曜日に、その人からついに話しかけられた。

「指切っちゃった」と、テープカッターで擦りむいた手を見せてきた。

ああもうなんて可愛いんだろう!

自前の絆創膏をポッケに入れて置かなかった自分を呪った。

「お店の絆創膏そこにありますよ」

と答えたらいそいそと貼っていた。

ああ貼ってあげたい!!と思ったけれど、触れてしまったら何か、変わってしまうような気がして、私はそれを眺めていた。

その頃には、私がそのお兄さんの大ファンだということは、バイト中が知っている事だった。

私の可愛いお兄さんが、ほかのバイト仲間のものになっちゃったら嫌なのでね。広めてやったのよ。

ところで、そのセブンの店長は、ロリコンだった。

私が少し前に紹介した高校の友人に手を出した挙句、私を恋愛相談係に任命してきた。

私はその事で疲れ切ってしまい、半年ほどで、金曜日ラブだけでは乗り切れなくなってしまった。

ので、お兄さんに「私あと3回で辞めるんですよ」と言った。

その頃には2.3言会話ができるくらいの関係にはなっていたので、何の気なしに伝えた。

単純にからかうと面白いことも知っていたので、またからかってやろうとも思って。

「ほーん」

と言われた。

いやぁもっとあるでしょう!寂しいとかさあ!と思った。

高校生なので、22時にバイトが終わると23時までに帰宅しなければ、補導されてしまう。

補導されてしまうから、家の近くまで送ってください!なんてことを何回かやっていた。

その日は確か、会話もそこそこに、普通に家に帰ろうと思っていた日だった。

22時に終わって、20分程でお店を出たように思う。

お兄さん、どこに住んでるんだろう?と気になって、ついて行ってみることにした。

「こっちの方向なの?」と聞かれた。

「どっからでも帰れますからー!」と答えた。当たり前だ。

お兄さんの家の方向は、セブンからは7.8分程、自宅からは15分ほどの場所にあった。

知らない道でもなかった。だが私は、信じられないほど方向音痴なのだ。

「ここ、どこですか?」

と思わず聞いてしまった。

「え!?店戻る?」と聞かれたが、私のその日のミッションはお兄さんを送ってあげることに変わっていた。

なんとなーく帰ります!と言ってわかりそうな道まで出てもらい別れた。

もちろん迷った。

本当なら10分もしないで帰れる道を、1時間半かけて帰宅した。

帰る途中、幼なじみに通話をかけた。

正直恋かどうかなんてここに来ても分かっていなかった。

けれどものすごく心臓の奥がきゅっとして、心筋梗塞になりそうだった。

ちょうどその頃、金髪のお兄さんは、派遣のバイトをするとかで、黒髪のお兄さんになっていた。

私はてっきり26歳くらいのフリーターなのかと思っていたが、なんと一つ年上なだけの大学生だった。

あと、やっぱりバンドマンだった。

帰る途中唯一繰り返した

「あと3回で辞めちゃうんですよ!?金髪にしてくださいよーーー!」

「だって派遣ダメなんだもん」

という会話を何度も思い返していた。

それから自体は急展開。

いや周囲からすれば想像通りだったに違いない。

もう何度目かの「もう辞めますよ!?言うことないんですか?!」

という会話。

その頃は成り行きでLINEをするようになっていたので私はLINEでもしつこく言っていた。

「お前こそ俺に言うことないのか?」と聞かれた。

はて??

「好きです??」と言った。

そこに関係を進展させたいという意図はなかったのですんなりと言った。というか何度も好きと言っていたとおもう。

なんと通話がかかってきたので、あれ私、どうしたいつもりだった?と思った。