金髪のお兄さん2

長かったので、分けただけです。

 

お兄さんの名前の表示された、着信画面を眺めながら、この通話に出たら、どうなってしまうんだろう?と考えた。

迷子になった時の、心筋梗塞がまた来ていた。

私は山手線を一周して、各駅でセフレを作る人間で、今も彼氏がいて、初体験は実の父親で、えっとそれから…なんてぐるぐる考えていたけど、通話越しのお兄さんの声という誘惑には勝てなかったので結局3コールもしないうちに電話に出たように思う。

通話越しのお兄さんの声はなんかやけに小さくて、私の頭の中ではなぜかアジカンの真冬のダンスが流れていて、次の日は学祭で、私はライブに出なきゃ行けなくて、FACTの予習をしなくちゃなとか余計なことばかり考えようとしては、無になっていた。

「どうしましたか?」

「えーっと…いや俺なんで電話したんだろ…んー…」

あ、これあれだ、好きもしくは付き合ってって言われるやつだ。

あーお兄さんそれ流されてるんじゃない?私のこと別に恋愛対象とかではなくない?状況に酔っちゃってるんじゃない?

なんて、さっきまで浮かれていたはずの私は妙に冷静で。

あんなに好きだったはずのお兄さんを、私という地雷原から遠ざけることに必死だった。

ので、ぐるぐるしていた頭の中と私の過去と現在を全部話した。

お兄さんは時折笑いながら、特に無駄口も挟まず、ずーっと聞いてくれていた。

話し終わると、「最近のJKはそんな小難しいこと考えてないでしょw」

と言った。

「辞めるなら今のうちですよ、傷は浅いうちに、鉄は熱いうちに打てですよ!」みたいな感じで答えた。

お兄さんは少し考えて「でも、今笑えてるなら別にいいんじゃない?」と言った。

今思えば、本当に辞めて欲しかったのか?どう返して欲しかったのか?慰められたかったのか?全部違うんだろうなと思う。

私にとってその答えは、同情も怒りも驕りも感じさせない、ただのその人としての感想、満点だったように思う。

私はそこではっきりと、あ、この人と毎日を過ごしたい、と思った。

もちろんそれからもう3年も経つのだし、今隣にいる恋人は、やっぱり金髪のお兄さんではないけれど。

私が、今も明日も笑うには、絶対に恋人がいてくれなければだめになってしまった。

なりより恋人のことをレジから見ていた時に、初めに好きになったのは笑った顔なのだ。

恋人を笑顔にするために、私は今日も生きているし、逆も然り。

包容力とか、不器用な所とか、でも手先は器用な所とか、優しいところとか、私1番なところとか、10月とか、そういうものに囲まれて私は今日も生かされてる。

そういう話。